大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和36年(行ナ)8号 判決 1963年1月31日

原告 中村領策

被告 日本弁護士連合会

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は、「被告が原告に対してなした昭和三五年一二月二六日付異議申立棄却処分を取り消す。富山県弁護士会が昭和三三年四月一日原告に対してなした原告に対し一ケ年間弁護士業務の停止を命ずるむねの懲戒処分を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として次のとおり陳述した。

一、原告は富山県弁護士会所属の弁護士であるところ、同弁護士会は原告が

(1)  昭和三〇年八月中旬頃原告とその弟中村亥平共有名義の富山市堀川小泉町字五百苅割三五一番地宅地二一七坪および三五三番地宅地六九坪の土地につき右亥平作成名義の土地分筆申告書一通を偽造し富山地方法務局に提出受理せられた。

(2)  非弁護士の法律事務の取扱を業とする林一郎から

(イ)  昭和二九年一〇月二二日藤井治佐久から村本正三に対する富山地方裁判所高岡支部昭和二九年(ワ)第一九八号損害賠償請求事件について村本の訴訟代理人として、また

(ロ)  同三一年七月頃樋爪庄吉外一五名から泉豊一外一〇七名に対する右同庁昭和三一年(ワ)第七二号所有権移転登記抹消手続請求事件につき樋爪らの代理として

それぞれ事件の周旋を受けた。

(3)  岡野仁市が多数共有者の代表として原告に対し共有分割手続を委任し契約金も代表して支払つたにかかわらず、岡野仁市が分割に関し他の共有者と利害相対立しているのを知悉しながら同人に対し何ら予め了解を求める方法も講ぜず同人が代表として原告に支払つた契約金の内同人の負担分八、〇〇〇円を同人に返戻しないで、昭和三二年七月多数共有者の代理人として同人を相手として共有土地分割請求の訴訟を提起した。と認定し、弁護士法第五六条、同第二五条第一号および同第二七条を適用し、昭和三三年四月一日原告に対し懲戒処分として一ケ年の業務停止を命ずるむねの裁定をしたので、原告はこの裁定を不服として、昭和三三年四月二四日被告に対して異議の申立をしたが、被告は富山県弁護士会の認定を全面的に是認し、昭和三五年一二月二六日右原告の異議申立を棄却し、該裁決書は昭和三五年一二月二八日原告に送達された。

二、しかしながら

(1)  原告は土地調査師犬島清一に対し富山地方法務局へ分筆申告書の提出を命じた事実はない。中村亥平名義の分筆申告書が富山地方法務局へ提出されるに至つた経緯は次のとおりである。すなわち、原告の実父中村平三郎は昭和二六年一一月二六日急逝したので、原告はその遺産である土地につき弟中村亥平と共同相続の登記を経たが、亥平が取締役、原告が代表取締役である日進建設株式会社が株式会社北陸銀行より一〇〇万円を借り入れるに当り、亥平と原告が連帯保証人になりかつ右遺産である土地の上に根抵当権を設定したところ、昭和三〇年八月右銀行に対する右会社の債務は約六〇〇万円に達し、原告は同銀行より右債権取立のため抵当不動産を競売するむねの通知を受けたので、右債務弁済のため右遺産の一部である原告の居住宅地五〇〇坪を処分することとなつたが、亥平は元来性格が異常であり、亡父平三郎の遺産相続につき後記のとおり原告との間に争があつたため、売買登記に協力しなかつた。そこで原告と銀行側と相談の末、同銀行が債権者代位権を行使して買人のついた部分から順次分筆競売することとなつた。たまたま右宅地のうち六〇坪につき訴外金子某に一坪金六〇〇〇円で売り渡す契約が成立したので、原告より右銀行に連絡したところ、同銀行より取り敢えず分筆の準備をするよう依頼されたため、原告は土地調査師犬島清一に対し、原告の所有地全部を調査し事情を知つている上野博基と相談して分筆の準備をすることを依頼したが、銀行が取立を延期したため分筆競売が行われず、原告は分筆準備依頼のことを忘れていた。しかるに、土地の分筆申告には当時申請者の印鑑証明書を要しなかつたし、また分筆そのものによつて事実上損失を蒙るものはいないところから、犬島調査師が原告に対し好意をもつて、原告の便宜のため分筆申告書を作成した上、原告方に持参し捺印を求めたところ、原告留守のため原告の妻もしくは長男が、郵便物受領等に使用する印をもつて右分筆申告書に押印したので、犬島調査師がこれによつて申告手続をしたものである。

仮りに本件分筆の申告が原告の行為によるものと認定されたとしても、原告は昭和二六年一一月父平三郎死亡以来遺産に関する一切の管理処分および負債の弁済に関し必要な行為を包括的に亥平より委されていたので、相続税に関する財産の申告、延納の申請、納税、部落の農道拡張のためにする土地の分割寄附等は、適宜原告が文書作成の責を果していたものであつて、しかも原告は昭和二九年春亡父の居宅土蔵の中より、遺産全部を原告に包括遺贈し原告を遺言執行者に指定するむねの父の遺言状を発見し、同年二月二二日富山家庭裁判所に提出して検認を受け、同年三月亥平を被告として富山地方裁判所に遺贈土地に対する亥平の持分(二分の一)登記につき抹消登記手続請求の訴を提起し、同庁昭和二九年(ワ)第五九号事件として審理の結果、昭和三三年一一月原告勝訴の判決が言渡され、一方亥平の遺留分減殺請求権は時効に因り消滅している。

亥平が原告と同様日進建設株式会社の債務につき連帯保証人であるにかかわらず一銭の債務をも弁済せず、原告はこれを弁済して亥平の責任を免れさせるべく苦慮したのであり、また、原告が分割の申告をしても、原告は包括受遺者として本件土地の完全な所有者であるから、亥平の資産に寸毫も損害はない。原告は本件事案について公訴を受けた事実はなく、またかりに有罪としても公訴の時効期間を経過しているのみならず、土地分割申告書の申告名義人の一人の名下に有合印を便宜押捺することが文書偽造罪となるか否かはすこぶる疑問である。零細な反法行為は犯人に危険性があると認めらるべき特殊の状況の下に決行されたものでないかぎり、共同生活上の観念において刑罰の制裁を加えるべき法益の侵害と認められない以上犯罪を構成しないという判例もあり、原告の右行為が国家の刑罰よりも重く罰せられることは不当である。

以上の次第であるから、原告の行為はその動機において反社会性がなく、その結果において実害がないのに、これを目して弁護士としての人格の破壊行為と同一視することは法の解釈適用を誤るの甚しきものである。

(2)(イ)  村本正三は同人が一年前昭和二八年春訴訟を提起した時原告にその事件の訴訟代理を依頼した旧知であつて、林一郎から同人の事件を周旋される必要はなく、その事実もない。前記一の(2)の(イ)の事件は村本正三が直接原告のもとへ来て訴訟代理を依頼したものである。弁護士法第二七条は弁護士が自己の利益のために非弁護士活動者と提携することを禁止する趣旨の規定であつて、非弁護士活動者が単にその利益のために事件依頼者と行動を共にしていたからとて受任弁護士が罰せられねばならないという法理は成立しない。本件において訴外林が依頼者村本正三と行動を共にし、あるいは村本と同行して原告を訪ねて来たことがあるとしても、それは林が村本の利益のために行動したのであつて、原告のために動いたのではない。そもそも、非弁護士活動者が事件依頼人と友人、親戚、利害関係等特殊な関係があつて、依頼者の事件を有利な結果に導くため適当と思う弁護士を推薦したり、依頼者と同行したりすることは彼等の自由であつて、受任弁護士の関知するところではない。原告は開業以来何人とも両者間に利益を共にするような提携をした事実はない。

(ロ)  樋爪正吉外一五名の事件は高岡市農地委員会が解放農地売渡の手続を誤まり、泉豊一外一〇七名名義に所有権移転登記をしたため、その抹消登記手続を右委員会の福沢書記から依頼されたものであつて、林一郎が周旋した事実はない。元来原告と林の住居は六里を隔て、原告は同人が素封家林専太郎の長男であつて農業のかたわら不動産売買仲介業をしているむね本人から聞いたことはあるが、同人が非弁護士の法律事務取扱業者であることは知らず、かつて同人に一銭の利益も与えたことはない。

(3)  岡野仁市は共有者の代表として分割手続を依頼したのであつて、個人として依頼したのではない。代表者の行為は代表者個人の行為ではなく代表される集団の行為であるとみなされる。原告に対し土地分割手続を依頼した者は岡野によつて代表される人々の集団であつて岡野個人ではないから、この場合岡野は弁護士法第二五条第一号にいわゆる相手方ではない。岡野が異議を唱え出した後においては原告は彼に会つたこともなく、裁判所へ分割請求をすることの委任を受けたこともない。岡野の異議について岡野個人から協議を受けて賛助したことも全然ない。費用、印紙、手数料等一二万円は共有者の代表として岡野が共有土地全体の分割費として原告に交付したものであり、依頼者一人につき何程と定めたものではなく、共有者の誰が何程宛醵出したか原告は関知しない。したがつて、原告が受領した手続費および手数料は岡野個人とは何らの関係もない。

共有物分割の手続は原被告相対立する通常訴訟と趣を異にしていると考える。一方の利益のためにのみ争うのではなく、社会および共同の利益のためにする法定の手続が分割請求訴訟である。裁判の結果にも勝敗のある道理がない。

岡野仁市が共有物分割請求依頼者の一団から脱落したからといつて、それだけ経費が減少する道理はなく、したがつて原告が二重に手数料を貰つている理屈にはならない。

しかも誰が原告となり被告となるか分らないことは原告の説明により全員諒解し、岡野も異議がなかつた。共有の持分は国が農地を解放した時各人が代金として支出した金額に従つて按分すべきこと(一応そのように登記されている)また誤算があればこれを訂正することも全員異議なく申し合わせた。

以上の次第で、原告は岡野個人の協議を受けて賛成したのではなく、また岡野個人の依頼を受けたのでもないから、原告の受任は弁護士法第二五条第一号に牴触するものではなく、したがつて同法条第二号、第三号にも牴触しないものであると考える。

三、弁護士会は弁護士法第三一条により弁護士の指導に当るものであるから、右原告の意見を具体的にかつ法律的に批判し、誤があつて良識と誠実を欠くものと認められればそのむねを啓蒙しあるいは警告を発し、原告がそれに服しないときにのみ懲戒処分を採るべきであると考えるが、何ら指導、警告を発せずして懲戒に付することは違法である。

四、よつて、前示被告のなした異議申立棄却処分の取消および富山県弁護士会のなした懲戒処分の取消を求めるため本訴請求に及んだ次第である。

被告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、原告主張の一の事実中原告が富山県弁護士会に所属する弁護士であること、同弁護士会が原告主張の事実を原告の懲戒事由として認定し、原告主張の日時に原告に対し弁護士法第五六条第一項、第五七条を適用して業務停止一年の懲戒処分の裁定をしたこと、原告が昭和三三年四月二五日に被告に対し異議の申立をしたこと、被告が原告主張の日時に富山県弁護士会の認定した懲戒事由全部の存在を認め弁護士法第二五条、第二七条、第五六条、第五七条を適用して右異議申立を棄却したこと、その議決書が原告主張の日時に原告に到達したことは認めるが、被告は前記富山県弁護士会が認定した(五)、(イ)の事実を除斥期間満了の理由をもつて懲戒事由から除いた。原告主張二のうち被告の認定した事実に反する原告の主張はすべて否認すると答弁した。

(証拠省略)

理由

一、原告が富山県弁護士会に所属する弁護士であること、同弁護士会が原告主張の事実を原告の懲戒事由として認定し、原告主張の日時に原告に対し弁護士法第五六条第一項、第五七条を適用して業務停止一年の懲戒処分の裁定をしたこと、原告が昭和三三年四月二五日に被告に対し異議の申立をしたこと、被告が原告主張の日時に富山県弁護士会の認定した懲戒事由全部の存在を認め弁護士法第二五条、第二七条、第五六条、第五七条を適用して右異議申立を棄却し、その議決書が原告主張の日時に原告に到達したことは当事者間に争がない。

二、(請求原因一の(1)について)

成立に争のない乙第五号証によると、昭和三〇年八月原告と中村亥平共有名義の富山市堀川小泉町字五百苅割三五一番地宅地二一七坪および三五三番地宅地六九坪の土地につき原告および右亥平作成名義の土地分筆申告書一通が富山地方法務局に提出受理せられたことが認められ、成立に争のない乙第三号証、証人中村亥平の証言によると、中村亥平は原告の弟であるが、右申告書は同人の不知の間に作成されたものであることが認められる。一方成立に争のない甲第一号証、乙第六号証、第八号証および第七、一四号証の各一部、証人犬島清一、同中村正陽の各証言、原告本人の供述の一部を合せ考えると、前記土地はもと原告と亥平の父に当る中村平三郎の所有であり、同人が昭和二六年一一月二六日死亡したため原告と亥平の共同相続の登記を経たところ、昭和三〇年八月原告が代表取締役、亥平が取締役として経営する日進建設株式会社の株式会社北陸銀行に対する六(七)〇〇万円の債務(原告および亥平が連帯保証人)弁済のためこれを他に売却することとなつたが、当時原告と亥平の間には父の財産相続の問題で争があり、亥平は右土地の処分につき同意しなかつたにかかわらず、原告は右土地の処分のためその測量および分筆の手続を土地調査師犬島清一に依頼したので、同人において前示分筆申告書一通を作成し、原告および亥平名下に捺印を受けるため、たまたま原告の不在中にこれを原告方に持参したが、平三郎死亡後は原告においてその遺産を管理しており、家人が遺産に属する土地について納税、都市計画その他の関係書類中原告および亥平名下にしばしば捺印したことがあるところから、前示分筆申告書に捺印を求められた際も、家人はたやすくこれに応じ、有合印をもつて捺印の上犬島に返還し、同人がこれを富山地方法務局に提出したこと、原告は昭和二九年亡父の居宅の土蔵の中から父平三郎の遺言状を発見したが、これには遺産全部を原告に包括遺贈し、原告を遺言執行者に指定するむね記載されており、これに基づき原告は亥平を被告として富山地方裁判所に土地所有権確認ならびに権利変更請求の訴訟を提起(富山地方裁判所昭和二九年(ワ)第五九号事件)したところ、亥平は右遺言状が原告の偽造にかかるものと主張したが、右訴訟の判決において右遺言状の真正であることが認められ原告が勝訴したことが認められ、他方亥平の遺留分減殺請求権は消滅時効により消滅していることが弁論の全趣旨からうかがわれる。前記乙第七、一四号証、原告本人の供述中右認定と相容れない部分は前掲証拠に照らし措信し難く、他に右認定を動かすべき証拠がない。原告は父平三郎死亡以来遺産に関する一切の管理処分および負債の弁済に関し必要な行為を包括的に亥平より委されていたと主張するがこれを認めるに足る証拠がない。

右認定の事実によると、前示土地分筆申告書中中村亥平関係部分は原告が自ら作成したものでないとしても、原告の指示に基づき作成されるに至つたものである。なるほど、原告と亥平は肉親の間柄であり、右文書作成の動機は原告個人の私利を図る目的に出たものではなく、亥平が取締役である会社が負担しかつ亥平も連帯保証人である債務弁済のためであるから、亥平がその作成に反対すべき理由はない。また分筆されても土地が共有であることに変りはないから、これによつて直に他の共有者である亥平の権利を害するいわれはない。しかも前記土地は結局原告一人の所有に帰したものであるから何ら実害はなかつたものというべきである。しかしながら弟とはいえ他人名義の文書をその不知の間に作成するが如きは、たとえ原告が文書偽造罪として処罰されなかつたとしても、違法の行為であることは勿論であるから、法律秩序の維持者である弁護士としてかくの如き行為は厳に慎むべきことであり、動機、実害等の点からみて事態は軽微であるとしても、弁護士法第五六条に規定されている品位を失うべき非行であるといわざるを得ない。

三、(請求原因一の(2)(イ)について)

成立に争のない乙第一号証の二によると、村本正三事件の代理周旋の分については、被告は弁護士法第六四条に規定する三年の除斥期間が満了しているものとして懲戒処分より除外したことが認められるから、当裁判所はこれについては判断しない。

四、(請求原因一の(2)(ロ)について)

成立に争のない乙第八ないし一二号証、第一五ないし一七号証、第二一、二二号証および同第一三、一四号証の各一部、証人福沢覚三の証言の一部を合せ考えると、高岡市が昭和三〇年夏頃買収して礪波製紙株式会社に敷地として提供した同市二塚の土地は、農地解放により樋爪庄吉ほか一五名に売り渡されたものであるが、その登記の際誤つて泉豊一ほか一二三名の名義で登記されたため、その抹消登記手続をする必要があつたところ、右会社は林一郎に工場敷地の登記関係の仕事を依頼していた関係上、昭和三一年七月頃樋爪庄吉ほか一五名は林一郎に対し弁護士の斡旋を依頼し、林一郎の推薦により同人を通じて原告に訴訟代理を委任した結果、原告は樋爪庄吉らの訴訟代理人として、同人らより泉豊一ほか一〇七名に対する富山地方裁判所高岡支部昭和三一年(ワ)第七二号所有権移転登記抹消手続等請求の訴を提起するに至つたこと、高岡市工場誘致事務局長福沢覚三は樋爪らから、市の方でも原告に樋爪らのため尽力方を懇請するように依頼され、原告に右依頼の趣旨に添う電話をしたことがあるが、それは樋爪らが林を介して原告に訴訟代理を委任した後であること、林一郎は弁護士でないのに報酬を得る目的で法律事務を取扱いまたは周旋することを業とし、高岡方面ではいわゆる三百として風評ある人物で、原告は昭和二八年末頃谷道代書人の紹介で林一郎と知合つたものであるが、同人がいわゆる事件屋であることはその頃知悉していたことが認められる。前記証言および証人林一郎の証言、原告本人の供述ならびに乙第一三、一四号証中右認定と相容れない部分は前掲証拠に照らし措信し難く、その他右認定を動かすに足る証拠はない。

右認定の事実によると、原告は非弁護士の法律事務の取扱を業とする林一郎から、樋爪庄吉ほか一五名より泉豊一ほか一〇七名に対する前記事件につき樋爪らの代理として事件の周旋を受けたものというべきである。したがつて、原告の右行為は弁護士法第二七条の非弁護士との提携禁止の規定に違反した場合に該当する。

五、(請求原因一の(3)について)

成立に争のない乙第一〇号証、第一一号証、第一三号証、第一四号証、証人岡野仁市の証言により成立が認められる乙第一九、二〇号証、証人岡野正吉、同岡野仁市の各証言、原告本人の供述を合せ考えると、高岡市能町地区元庄川廃川地帯の土地四二三〇〇歩は農地解放の際売渡を受くべき岡野長次郎ほか八四名に対し全員の共有として売り渡され、売渡を受けた者各自の持分は国に支払つた代金に応じ千分比をもつて登記されていたところ、共有者のうち大多数の者は早急に分割することを希望したのに対し、残りの小数者がこれに反対したため、分割希望者の一人であつた岡野仁市は同人ほか七五名の代表名義をもつて昭和二九年四月原告に対し、登記簿に登載された持分の割合に応じて分割するよう分割の手続を依頼し、土地の測量代、図面作成の費用、登記料、裁判手数料、報酬等を一切含めて金二〇万円と定め、内金一二万円を同月五日および一四日の二回にわたり原告代理人林一郎に交付した。しかるに岡野仁市は当初同人の登記簿上の共有持分の割合と農地解放当時における耕作面積とは一致しているものと考えていたところ、後日に至り両者の間に食い違いがあり、同人の耕作地のうち亀島の土地約一〇〇〇坪は登記簿上の持分の割合に応じて分割すれば岡野正吉の所有に属することが判明したので、岡野仁市より岡野正吉に対し、この土地を岡野仁市に配分することにしなければ分割には応じられないと申し出たが、岡野正吉は登記簿上の持分の割合による分割を主張して譲らなかつたため、岡野仁市は岡野正吉に対し、同人らと別行動を取ることを言明したので、昭和三一年八月一六日岡野正吉らは改めて原告に対し、登記簿に登載された持分の割合に応じ分割するようその手続を委任した。そこで原告はこれに基づき昭和三二年七月村中専太郎ほか七〇名の代理人として、分割反対者に岡野仁市を加えこれら一二名を相手方として富山地方裁判所高岡支部に共有物分割請求の訴訟を提起したが、右訴訟提起に先立ち岡野仁市に了解を求めることはせず、また岡野仁市らより原告に交付された一二万円のうち八〇〇〇円は岡野仁市が負担したものであつたが、原告はそのことを知らず、同人にこれを返還しなかつた。岡野仁市は原告が前記訴訟を提起するとの風評を聞き原告方に赴き、同人が従来の仲間と別行動を取るに至つた事情を説明しようとしたが、かねてそのことを聞知していた原告はこれを遮り、「先に貴方は私に対し分割希望者らの代表として事件を委任したのであるから、貴方個人の話は聞くことができない。」と協力を拒絶した。最初岡野仁市が同志の者を代表して原告に分割の手続を依頼するに先立ち、昭和二九年二月頃同志の者らが集つて原告の説明を聞いたことがあり、その際原告は「反対者がいても裁判所に訴えて分割できる。」むね述べたことがある。以上の事実が認められる。

右認定の事実によると、原告は岡野仁市から共有地分割事件につきその依頼を引受けながら、同一事件につき岡野正吉ほか七〇名の委任を受けその代理人として岡野仁市を被告として訴訟を提起したのであるから、原告の右行為は弁護士法第二五条に違背するものといわなければならない。

原告は、岡野仁市は共有者の代表として分割手続を依頼したのであつて個人として依頼したのではないと主張するけれども、共有者は団体を構成するものではないから、共有者の代表名義をもつて依頼したということは岡野仁市が本人および代理人たる資格において依頼したということにほかならない。したがつてその依頼には岡野個人の依頼も包含されているものと解すべく、原告の右主張は失当である。分割手続の費用、報酬等として岡野仁市より原告代理人林に交付された前記一二万円が依頼者一人につき何程と定めたものでなく、各依頼者の醵出金額を原告が関知しなかつたとしても、そのうちに岡野仁市の醵出した分も包含されていたことは当然察知されることであるから、これをもつて岡野仁市個人と何らの関係もないということはできない。

次に原告は、共有物分割の手続は原被告相対立する通常訴訟と趣を異にすると主張する。なるほど、共有地分割請求の訴においては分割の方法を主張することは訴の要件ではないのみならず、当事者がこれを主張しても裁判所はその申立に拘束されることなく実質を審査し、民法の規定に従つて分割を実現すべきものであるから、形式上は訴訟事件であつてもその実質は非訟事件であつて、通常の訴訟におけるが如き原告と被告の対立はないということができるであろうが、共有者間に分割の方法について争があり、利害の衝突が起り得ることは勿論であるから、共有物分割の訴訟事件には弁護士法第二五条の適用がないということはできない。

原告は、また、誰が原告となり被告となるか分らないことは全員諒解し岡野仁市も異議がなかつたと主張するが、弁護士法第二五条第一号の場合は相手方の同意の有無にかかわらず職務を行い得ないこと同法条但書に照らし明らかであるから、原告主張の如く岡野仁市の諒解があつたとしても、原告の行為は右法条に違背するものというべきである。

六、(請求原因三について)

弁護士法第三一条は弁護士会が所属弁護士の品位を維持するためこれが指導、監督に関する事務をも行うことを目的とすることを定めているが、そのことから原告主張のように、弁護士会が懲戒処分に先立ち弁護士の意見を聴き、これを批判、啓蒙あるいは警告を発した上弁護士がそれに服しないときにのみ懲戒処分を採るべきことが懲戒処分の手続上要請されているものとは解されないから、原告の主張は採用し難い。

七、以上の次第であるから、本件において被告が請求原因一の(1)、同(2)(ロ)、同(3)の事由に基づき、富山県弁護士会のした一年間の業務停止の懲戒処分を相当として原告の異議申立を棄却した処分は、結局処分の手続に違法はなく、全く事実の基礎を欠くものでもなく、また本件事案に照らし著しく妥当を欠くものということができないから、正当であるといわざるを得ない。

よつて右処分の不当であることを前提とする原告の本訴請求は理由がないものとしてこれを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 関根小郷 福島逸雄 荒木秀一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例